沖縄出身。純粋の日本人だと思われるが、物心ついたころには家族と呼べる人間はいなかった。施設で育つが13才で施設を脱走し、米軍キャンプの側の歓楽街を根城に自分なりの生きる術を身に付けていく。不良軍人と知り合い、軍の武器の横流しを手伝った。そんなある日、酒場で不良軍人と武器の受け渡しの話を進めていると傍らで派手な喧嘩が起こった。一人は、キャンプ内で敵無しのボクシングチャンプであるマイク。もう一人は初めて見る顔の小柄な日本人だった。
「オイ、ボウズ!アノフタリ、ドチラガカツカ カケナイカ?」
「あの男は空手を使うようだが、マイクには勝てっこないぜ。」
「ジャア オレハ アノニホンジンニ カケルトシヨウ。」
勝負は一瞬だった。マイクのこめかみに正拳突きがヒットしたのだ。マイクの頭部が異様な形に変形し、巨体は前のめりに糸が切れたように倒れた。
「アイカワラズ タイシタウデダ。アイタカッタゼ。ミスターソリマチ。」
「このデクは、目が喋りすぎる。肩ならしにもならねえ。」
呆然とする竜二。
「汚えぞ!知り合いだったのか?」
「ハッハッ スマネエ ボウズ!コンドノ トリヒキアイテノ ミスターソリマチダ。カレハ ホンドデ アルソシキノ カンブヲシテイル。」
「何だ、この小僧は?」
「コンカイノ トリヒキノ テビキヲスル。ナマエハ リュウジダ。」
この後、竜二は、反町とともに本土に渡り、反町の組織の一員となった。竜二は反町に組織での生き方を学び、またその喧嘩空手も身に付け、成り上がっていく。
「竜二よ、本来、俺たちは素手で喧嘩をしちゃいけねぇ。しかしその場に出くわしたときには、相手を殺すつもりでやるんだな。」
竜二が20才の頃、組織同士の抗争が起こった。この抗争によるお互いの犠牲者は増加の一途をたどり、抗争長期化を懸念した組織のボスは、この原因を反町の責任とし、相手の組織に引き渡すことで和解する取り引きを交わした。
この出来事で竜二は切れてしまう……。
本当の兄のように慕っていた反町の死に、彼の狂気は暴走し始めた。組織のボスのところに乗り込む。
「へっへっ…親父っさんよぉ、やってくれたじゃねえか……ヒィ、ヒッ……。」
「竜二よ、これで反町の握っていた権利はすべてお前のものだ。しっかりやるんだな。」
「なに寝言こいてんだぁ……あぁ?……」
「なんだと竜二ぃ……貴様だれに向かって口きいてんだ!!」
「よくも兄貴をハメてくれたなぁ……覚悟決めてんだろうなぁクソ爺がぁ!」
「な・何だと……う・嬉しくねぇのか竜二?……お・落ち着け・お・落ち着いて話そう。なっ・りゅ・竜二よ。」
「うるせぇよ。もう遅ぇんだよ。俺は兄貴に教わったんだがよ。喧嘩するときは、相手を殺すつもりでやんなってな。そうすりゃ誰にも負けねぇってよ。」
「ちょっ・ちょっと待て……。」
「ヒッヒッヒ……兄貴はよぉ俺の左拳を褒めてくれたんだぜ。嬉しかったよなぁ……心配しなくてもすぐには殺さねぇよ。両ふくらはぎを切って、両膝の皿を叩き割って、それから……ヒィーッ・ヒッヒッ……」
これ以後、日本国中の組織を敵に回した竜二は、香港の九龍城に身を潜めた。それからの10年間に着々と力をつけ、香港でも新興の勢力として台頭してきた竜二は、秦の秘伝書のことを知り、また秦一族の血を引く双子の兄弟を捜し当てることに成功する。双子の兄弟に隠された不思議な力を見た竜二は、ますます秘伝書への興味を募らせていく。
香港の九龍城に潜伏している10年間に、新興勢力として台頭をはじめた。
秦の秘伝書のことを知り、秦一族のの血を引く双子の兄弟を探し当てる。
超キレた奴である。
この、一見ヤクザでしかない男の狂気が暴走し、あらゆる人々を巻き込んでやがて「餓狼伝説3」という物語の引き金を引くことになる。
ギースに言わせれば「単なるネズミ」程度のものらしい。
地位的に見ればたしかにそうだが、這い上がろうとする者の力を見くびってはならない。
山崎は秘伝書事件の黒幕の一人であり、秦兄弟も一目置く格闘術の持ち主だ。
決して派手ではないが、一切のムダが省かれた格闘スタイル。
山崎の喧嘩殺法は、生きぬくためにのみ振るわれ、鍛えられたものである。
血に濡れた彼の拳の前では、生半可な拳法使いなぞ敵ですらない。
そして、それ以上に恐ろしいのが彼の内に潜む凶暴性だ。
山崎という男を支配する狂気、それは単なるハッタリではない。
狂気を本能とし、力の源としているからこそ向かい合う者の心胆を寒からしめることができるのだ。
日本や香港の暗黒街を敵に回し、勢力を伸ばしてきた山崎が今度はアメリカに喧嘩をふっかける。
秘伝書の魅力に取り憑かれた山崎は、あらゆるものを利用し最後には秦兄弟をも抹殺するだろう、自分の利益を優先するために。
そのとき、兄と慕った反町の声が、山崎を駆り立てるのである。
「喧嘩は、相手を殺すつもりで闘え」と。
「クソッ!あの香港のヒマ人め。こんなとこまで追ってくるとはな……」
ホンフゥの執拗な追跡に、秘伝書を奪いそこねた山崎は、未だにサウスタウンに潜伏していた。
「あの秘伝書には始皇帝の財宝のありかが記されているはず。こうなりゃギースの一味をとことん張ってやるぜ」
「おやおや、まだこんなところにいたのかい?」
「貴様はビリー・カーン!」
「フン!秘伝書を狙っているのか。おめでたい野郎だ」
「丁度いいぜ!貴様の首を手みやげに、ギースタワーに乗り込んでやるぜ」
「慌てんなよ。いい話を持ってきてやったぜ!てめぇもキング・オブ・ファイターズに招待してやるよ」
「キング・オブ・ファイターズだと?」
「ああ世界最強を決めるお祭りだ。そこで優勝すりゃ秘伝書もこの街もてめぇのもんだぜ。ただし俺やギース様に勝てればの話だがな」
「ケケケ……ヒ……そりゃいいや。ギースに言っとけ、『貴様のバカは死んでもなおおらんバカだ』とな。ヒッヒ……」
彼の格闘スタイルの基本は空手であるが、格闘技とは別の次元で、彼のスタイルは確立されたと言っていい。彼の生活環境は「生きる」か「死ぬ」か、「殺る」か「殺られる」かのレベルで成り立っていた。死に直面した闘いをくぐり抜けて生きて来た彼にとって、ルールの存在する格闘技など、最も信用のならない者が集まってのじゃれあいだと言う。
「何で闘うかって?へへ…好きだからよ。人間の骨の軋む音や、筋の切れる音がたまらなく好きなんだよ。」
修羅場を人一倍経験した彼には、闘うことに意味など無いと言う。それが彼にとっての生活であり、呼吸するかのように、ごく自然に存在しているのだ。己の力しか信用していない彼には、無神経なほどに背負うものがないのである。より野性的で純粋な闘いが彼を支配しており、それが彼の怖さとなっている。
彼の格闘スタイルの基本は空手であるが、格闘技とは別の次元で、彼のスタイルは確立されたと言っていい。彼の生活環境は「生きる」か「死ぬ」か、「殺る」か「殺られる」かのレベルで成り立っていた。死に直面した闘いをくぐり抜けて生きて来た彼にとって、ルールの存在する格闘技など、最も信用のならない者が集まってのじゃれあいだと言う。
「何で闘うかって?へへ…好きだからよ。人間の骨の軋む音や、筋の切れる音がたまらなく好きなんだよ。」
修羅場を人一倍経験した彼には、闘うことに意味など無いと言う。それが彼にとっての生活であり、呼吸するかのように、ごく自然に存在しているのだ。己の力しか信用していない彼には、無神経なほどに背負うものがないのである。より野性的で純粋な闘いが彼を支配しており、それが彼の怖さとなっている。
幼い頃より単身で生き抜く術を身につけた、生まれもっての一匹狼。そんな彼にも唯一、気を許した人物がいたが、その人物の死が彼を狂気に走らせた。死と隣り合わせの世界で拳を振るってきた彼にとって、闘いとは殺るか殺られるかだけである。手に入れたいもののためには手段を選ばず、蛇のような執拗さで獲物を捕らえる。彼の目的は、ギースコネクションを獲得することにあった。
サウスタウンを一望できる唯一のビル、ギースタワー。椅子に深く腰掛け、いつもと変わらぬ風景を眺めているギース。扉をノックする音がする。
ギース 「入れ」
ビリー 「失礼します」
ビリーが近づいてくる歩調に合わせるかのように、ゆっくりと背を向けるギース。
ビリー 「何か御用で?」
引き出しから何か招待状らしき封筒を取り出し、ビリーに差し出す。
ギース 「読め」
封筒を受け取り開封する。
ビリー 「へぇ。やるんですね、キング・オブ・ファイターズを」
ギース 「うむ。ハプニングがあったにもかかわらず、興業的には成功を収めたようだからな。スポンサーがまた『ウマ味』にあずかりたくなるのも無理はない」
ビリー 「出場なさるんですか?」
ギース 「今回は見合わせることにした。私もそうそう暇ではないのでな」
ビリー 「それでは・・・」
ギース 「今日呼んだのは他でもない。お前に出場してもらう。出場者に少々気になる男がいてな・・・」
ビリー 「そいつの調査ですね。やらせていただきます。で、気になる男というのは・・・、やはりテリー・ボガード?」
ギース 「いや。八神庵だ。いや、正確に言えば八神が持つ力と言った方がいいか」
ビリーの脳裏に忌まわしい記憶が蘇る。かろうじて感情を押し殺すビリー。
ビリー 「八神・・・庵!・・・しかし奴の操る力はオロチの力、それも亜流の・・・。そんな物を何故今さら・・・?オロチの力などもう興味がなかったのでは?」
ギース 「奴の操る力、確かにオロチの亜流と言っていいかもしれん。が、前大会で見せた奴の狂気、あれは私が見たオロチにはないもの、いや、それ以上だった。その体自身にオロチの血を受けた男・・・。あの男ひょっとすると相当に化けるかもしれん」
ビリー 「混血ゆえにか・・・。なるほど、そういうことでしたら・・・。しかし、ご存じでしょうが、奴と俺には因縁があります。それを考えた上で俺をご指名になったのですか?ともすれば奴を・・・殺しますよ、俺は」
ギース 「かまわん・・・。それで死んでしまえばそこまでの男、だ」
ビリー 「分かりました。そういうことでしたら。ところで、誰と組めばいいのですか?」
口元だけをゆるませ、ビリーを凝視するギース。
ギース 「一人は山崎竜二。もう一人はブルー・マリーだ」
ビリー 「山崎にブルー・マリー?そいつはまた・・・」
ギース 「山崎にも少々興味があってな・・・。だが、こちらはお前が調べる必要はない。ダミー会社を通じてそっちの調査はブルー・マリーが勝手にやってくれるだろう。おまえは八神にだけ専念すれば良い」
ビリー 「山崎に何の興味が・・・」
ギース 「フッ、会えばわかる、会えばな・・・。奴の居場所はわかっている。出ていく前にホッパーに確認しておけ」
ビリー 「承知しました。それでは早速・・・」
退室するビリー。席を立ち再び窓に視線を移すギース。
ギース 「思いのほか面白いものになりそうだな、今大会も」
道場。道着を着た男達が何者かを囲んで立っている。そこから少し離れたところ、道場の中が見渡せるところにビリーが立っている。
ビリー 『もう始まっているようだな』
何の言葉をかけるでもなく、道着の男が囲みの中心にいる男に掴みかかる。
ビリー 『駄目だな、あんな間合いじゃ思う壷だ・・・』
掴みかかろうとした男がいきなり吹っ飛ばされる。
ビリー 『・・・"蛇使い"のな』
続いて幾重にも重なった鮮やかな炸裂音が響く。次々と吹っ飛ばされる男達。
男達が築いていた『壁』が瞬時になくなり、その中心に一人の男が現れる。
ビリー 「山崎竜二か・・・、あいつのどこにギース様の興味を引くところが・・・?」
考えながら状況を注視するビリー。ダメージが浅かったのか一人の男がすかさず山崎に組みついていく。山崎の顔に焦りはない。
男 「貴様ぁ、ただではおかん・・・!な!」
にやつく山崎。男の腹にはいつの間にか匕首が突き立てられている。静観するビリー。
ビリー 「どう見たって、タチの悪いチンピラってだけだぜ」
男 「ひ・・・卑怯・・・な・・・」
山崎の顔が更ににやつく。
山崎 「卑怯だぁ?おいおい、スポーツじゃねンだぜ?ハナから喧嘩のつもりだったんだがな・・・」
匕首を動かし、さらに腹をえぐる。苦悶の悲鳴をあげる男。山崎の低い声。
山崎 「・・・俺ァよ」
崩れ落ちる男。面倒臭そうに匕首を収める山崎。いつの間にかビリーが道場に入って来ている。気配に気付く山崎。
山崎 「・・・!何だ、ギースんとこの飼犬か。何の用だ?」
ビリー 「たいそうな暴れ方だな。こんな所でどんちゃん騒ぎたぁ、よっぽど暇を持て余してるってことか?」
山崎 「何を言ってるのか分からンぜ。それとも何か?お前もこんな風になりたいってか?」
ビリー 「ハッ!ジョークはやめろよ。俺がお前に負けるってのか?ありえんな。賭けてもいいぜ」
山崎 「てめぇ、本当に喧嘩を売りに来たのか?あン?」
ビリー 「まぁ話を聞けよ。今日来たのは喧嘩じゃない、ビジネスが目的だ」
山崎 「ビジネス?なンだよ、そりゃ?」
ビリー 「近くキング・オブ・ファイターズが開催される。それに参加し、優勝する。それだけだ」
山崎 「キング・オブ・ファイターズだぁ?フンッ、ヒマ人の格闘大会じゃねえか。興味はねぇなぁ。ま、他をあたれ・・・!?」
不意に足をつかまれる山崎。見るとさっきの男が足にしがみついている。今までになかった残酷な笑みを浮かべる山崎の顔。
山崎 「ク・ク・ク、そ・う・こ・な・く・ちゃ・なあッ!」
瞬時にして上がる血しぶき。狂気とも悲鳴とも取れる絶叫をあげる山崎。ビリーの背中を冷たいものが伝わっていく。
ビリー 『何だってんだ?さっきとは桁違いの殺気だぜ・・・!!』
一瞬、ビリーの脳裏をよぎるギースの台詞。
ギース 『会えばわかる、会えばな・・・』
ビリー 『そうか・・・、そういうことか』
山崎 「いくらだ・・・」
山崎の呼びかけにふと我に返る。
ビリー 「何だ?」
山崎 「いくら出すんだって言ってンだよ。気が変わった・・・、出てやるぜ、キング・オブ・ファイターズによォ!」
ビリー 「優勝賞金のさらに倍額だ」
山崎 「忘れンなよ・・・」
一人道場を立ち去る山崎。しばらくして後ろから女が声を掛けてくる。
マリー 「面白い話になってきたみたいね。私も一口乗せてくれない?」
ビリー 「てめぇか。何のつもりだ?」
マリー 「別に・・・。網を張ってたのよ、ちょうどいい暇つぶしはないかって」
ビリー 「その網に俺達が引っかかったってか?」
マリー 「そういうこと」
ビリー 「・・・ヘッ、ま、いいだろう。ちょうど人数も揃うことだしな。好きにするがいい」
道場を出ていくビリー。すれ違いざまにマリーが声を掛ける。
マリー 「ありがとう。そうさせてもらうわ」
道場を出るとビリーの横に車が追いついてくる。すかさずそれに乗り込み、何者をも寄せつけないかのごとく目をつぶる。
ビリー 『メンツは揃った。ヘッ、俺としたことがこんなことで興奮してるぜ。待ってろ、八神庵。必ず仕留めてやるぜ!』
道場。積み上げられた男達を眺めているマリー。
マリー 「なんとかターゲットとは接触できたわ。けど、この依頼、何だか匂うわね。山崎と同時にクライアントの方も調べておく必要がありそうだわ」
「ヘイヘイヘイ! どきなチンピラ。そこは俺の席だぜ?」
「・・・・・・」
「シカトかよ。ギース様、このカンフー野郎、少し教育してやりましょうか?」
「犬に譲る場所などない」
「・・・・・・よく聞こえなかったぜ。もう一度言ってみな?」
「飼い犬の居場所は犬小屋だと言った。これで満足か?」
「てめぇ・・・・・・」
「ヒャハハハ、いいぜ兄ちゃんたち。見物してやるよ。とっととおっぱじめな!」
それが、初めて3人が顔を会わせた日の、それぞれの第一声だった。
イギリス出身の棒術使い、ビリー・カーン。
闇のブローカー、山崎竜二。
そして、ゆったりとした拳法着をまとった長髪の男。
「確かてめぇ、牙刀とか言ったよな。長生きしたけりゃ、口の聞き方を学習しな」
「・・・・・・」
八極拳を始めとする剛系の拳法を使いこなすというその男は、まだ若く、がっしりとした体格で、そして周囲の空気を張り詰めさせる何かを持っていた。が、それで臆するような殊勝な人間は、この広い部屋の中に一人もいない。
その彼らを一堂に集めることができる人物もまた、この街に1人しかいない。
ギース・ハワード。
ハワード・コネクションの総帥にして、古武術の達人。そして裏社会に巨大な権力を持つ、闇の支配者である。
「手をとって親愛のダンスを踊れ、とは言わんが・・・・・・」
苦々しく葉巻を揉み消したギースは、深く腰掛けたまま、革張りのイスを180度回転させ、全員に背を向けた。
「クライアントの前では、もう少し仲の良いフリをしてはどうだ?」
周囲を見下ろす高層ビルの最上階からは、彼の街、サウスタウンが一望できる。
「クライアントだと? この俺を雇ったつもりか」
牙刀は立ち上がった。
「くだらん。俺は格闘大会などに興味はない。帰らせてもらうぞ」
ビリーは肩をすくめ”好きにするがいいさ”と小さく呟き、ギースは背中を向けたままで言った。
「この街・・・・・・サウスタウンには、様々な人間がやってくる」
牙刀はギースの言葉を無視して、ドアに足を向けた。
「例えば、行方不明の兄を探している日本人の少女とか、な」
牙刀の足が止まった。
「だから何だ。俺には関係ない」
「それはそうだ。だが、この街には他にも大勢人間がやってくる。貴様によく似た拳法使いが、その中にいたとの報告がないこともない」
ハワード・コネクションは、サウスタウンのあらゆる情報を手中に収めている。牙刀もそのことは重々承知している。
「ヤツがこの街に? 何の目的で・・・・・・まさか、KOFに」
「それはわからん。だが、数百万の人間の中に紛れ込んだ男を、貴様一人で探すのは不可能だ。簡単な話ではないか? 貴様は大会で優勝する。私は貴様の目的をかなえてやる。貸し借りはなしだ」
「・・・・・・フン。よかろう。その話、のってやってもいい」
「ケッ、面白くねえ野郎だ。ギース様、俺はこいつらと出場するくらいなら、犬とでも組んだほうがマシだと思いますがね」
「ギャハハハ、てめぇはなにしろ飼い犬だからな。犬同士で気が合うだろうよ!」
「山崎てめぇ・・・・・・」
「おっと、犬が客に吠えかかるたぁ、躾がなってないぜ。なぁギースさんよ?」
「薄汚ぇヘビ野郎が。静かにさせてやろうか? あぁ?!」
「よさんか、ビリー」
ビリーも血の気が多すぎる方だし、山崎にいたっては血を見るのが何よりの楽しみという屈折した精神構造を持っている。ギースという存在がこの場にいなければ、5秒もたたないうちに血みどろの殺し合いを始めたことだろう。
「・・・・・・とにかくだ、今回のKOFには、お前たち3人で参加してもらう。報酬は充分にくれてやるし、必要な情報は組織を上げて調査してやる。これはビジネスだ。それも破格の好条件だと思うがね」
山崎は表情に狂気を漂わせ、ニヤニヤと笑い続けている。
牙刀は無表情のまま、ギースから視線を外さない。
ビリーは不満と不快を露にしてはいるが、ギースへの忠誠心はそれを上回るようで、今は構えていた自慢の棒も手元に収め、おとなしくしていた。
「異存がないなら結構だ」
ギースはイスを再び回し、結成されたばかりの「チーム」のメンバーに顔を向けた。
「貴様等にチームワークなど期待してはいないが、KOFで優勝はしてもらう。それ以外の結果で報酬を期待してもらっては困るぞ」
「それ以外の結果?」
口調には皮肉も冗談も混じっていない。牙刀には揺らぐことのない自信があった。己の力に対する自負が、それを言わせた。
「俺が参加する以上、結果はひとつだ。優勝してやる」
「結構だ」
「おいおい、寛大なギース様よ。俺のお願いは聞いてくれねえのか?」
「・・・・・・またギャラがどうのとオフィスで暴れられては迷惑だ。言ってみろ」
「血だよ」
「・・・・・・血、だと?」
「最近俺ぁ血が騒いで仕方ねぇんだよ・・・・・・試合でちっとばかし『やりすぎ』ちまうかも知れねぇが、そのへんはよろしく頼むぜぇ」
ギースの目が冷ややかな光を帯びた。が、それも一瞬のことである。
「好きにしろ。『事故』で処理できる範囲でなら、な」
「ヒヒャハハハハ!! ありがてぇぜ! これでやる気も出るってもんだ」
「話はそれで終わりだな? では大会当日まで、せいぜい骨休めしておくがよかろう」
牙刀と山崎が部屋を後にすると、中にはギースとビリーだけが残された。
「ギース様、今回の大会のことですが・・・・・・」
「そのことだがビリー、貴様には伝えておかねばならんことがある」
「はっ」
「山崎の行動を監視するのは当然だが、あの牙刀という男からも目を離すな。特に奴に接触してくる人間がいたら報告しろ」
「承知しました。ところでギース様、今回のKOF、主催者はいったい誰なのです?」
「・・・・・・」
ギースは答えず、再び革張りのイスの背を向けた。
沈黙の後、一礼してビリーも退室した。
チームの3人が再び一堂に会するのは、大会当日のことになる。